はじめに
筆者の住む藤野(神奈川県相模原市)は、シュタイナー学園があります。2018年夏はじめて藤野に来た際に、藤野観光協会主催の移住体験ツアーに参加したのですが、シュタイナー学園もツアーの見学場所に組み込まれており、はじめてみたシュタイナー学園の校舎の壁の色合いや生徒さんの作品、黒板アートの美しさが強く印象に残ったのを覚えています。そのときは夫婦2人暮らし。こどもがいなかったこともあり、その後しばらくシュタイナー学園との関わりはなかったのですが、2020年年末に第一子が誕生したこともあり、いま新たにこどもの教育について学び始めたところです。
年々不登校の児童の数が増え続け、学級崩壊やいじめなど問題がつきないように見える日本の教育現場。もしかすると既存の教育のかたちが今を生きるこどもたちにそぐわなくなり、その歪みが表面にあらわれてきているのかもしれません。公教育のほかにも、フリースクールやインターナショナルスクール 、オルタナティブ教育など多くの選択肢がある中で、どのような教育がこどもの健やかな成長をサポートし、可能性を広げるのに望ましいのでしょうか。オルタナティブ教育の中には、世界が注目しているモンテッソーリ教育やシュタイナー教育 などがありますが、こちらではシュタイナー教育 について取り上げたいと思います。
シュタイナー教育 とは
哲学者であるルドルフ・シュタイナーが提唱し、1919年にドイツで創立した「自由ヴァルドルフ学校」において取り入れられました。約100年もの歴史があり、今では世界60か国で取り入れられているシュタイナー教育は、すべての子どもが持っているユニークな個性を最大限に発揮できるよう尊重する教育法です。
「からだ」「こころ」「あたま(知性)」の成長のバランスを重視し、7年ごとの周期で捉える子どもの成長過程に合わせた、芸術的かつ体系だったカリキュラムが特徴です。
こちらのサイトでは、シュタイナー教育でどの学年でどのような学びを実際に行っていくのか具体的に紹介してありますので、ご興味ある方はぜひご覧になってみてください。
※参考に掲載させていただきました、こちらのカリキュラムは「いずみの学校」のもので、学校によっては多少カリキュラムに違いがあります。
シュタイナー教育では、こどもをこのような三段階の時期でとらえています。
第一【0歳~7歳】 (からだ)意志を育てる時期
第二【8歳~14歳】 (こころ)感情を育てる時期
第三【15歳~21歳】(あたま)知性を育てる時期
三段階の成長を支えるうえで、オイリュトミーとフォルメン、水彩や美術工芸や手しごと、園芸や音楽など、独自で多様な活動をカリキュラムに取り入れています。
自由に生きる力を育み、学習面だけでなく、
感受性や表現力、社会性など総合的な人間力を高めることを大切にしています。
オイリュトミー
音と言語を、体の動きであらわすオイリュトミー。オイリュトミーは、ギリシャ語で「美しい調和のリズム」を表しています。言葉や音楽の中に息づく様々な法則性を動きにより全身で感じながら、心と意思、そして考えをつなぎ、調和させていきます。
シンプルなフォルムから始めて、学年が上がるにつれ、次第に幾何学的なフォルム、より複雑で抽象的なフォルムを動き、それにより方向感覚、柔軟な思考、自然で美しい歩みと身体の動き、空間の中で他者とともに動く社会性を身につけます。
フォルメン
フォルメン線描は、ただ”描く”だけではなく、直線、曲線、それぞれの形に宿っている「動き」を感じとることを大切にしています。体を動かしながら、動きを感じながら、様々なフォルメンを描くことで形を認識し、図形的な理解につながり、文字や幾何学を学ぶ基盤が育ちます。
フォルメンは、子どもたちの成長に合わせて、より複雑に交差や広がりを持つものになり、バランス感覚やリズム感覚を育て、呼吸を整え肉体的な成長を促していきます。
シュタイナー教育 と日本の一般的な教育との違いは
シュタイナー教育を取り入れている保育園や幼稚園は基本的に縦割りのクラスで編成され、異年齢の子どもたちが共に活動します。一般的な幼稚園や保育園では年齢別のクラス編成となるため、その点が大きな違いかもしれません。
また、シュタイナー教育の小中学校では、基本的に8年間の一貫教育となり、小学1年生から中学3年生まで同じクラスの仲間と学ぶようです。一人の担任が8年間同じクラスを担当するというのも、一般的な学校とは異なりますね。
シュタイナー教育が行われる小中高校での授業では1時間目を110分間として、「エポック授業」を取り入れています。全ての学年が、国語、算数、理科、社会などにあたる科目のいずれかを2~4週間前後集中して学びます。同じ科目のまとまった学びは年に数回。たっぷりその科目に浸って学んだ後は、しばらく休んで別の科目に入ります。学んだことをいったん忘れることによって、それが新しい段階の記憶となって意識下に蓄積されていくことを意図しています。
エポック授業では優劣をつけるテストを行なわず、レポート提出や担任との受け答えで評価をします。
一般的な公立小中高校では、小学校で1単位45分、中学校で1単位50分と授業時間が決められており、公立高校においては1単位50分のところもあれば、90分のところもあるようです。
公教育では集団行動を重んじ、一般クラスの他に療育クラスはあるものの、一般クラスでは基本的にはすべてのこどもに決められた画一的な教育が行われるのに対して、シュタイナー教育では個性を尊重し、ひとりひとりのこどもの成長を注意深く見守りながら、発達段階にあわせた教育が行われることも本質的な違いといえるでしょう。
シュタイナー教育 のメリットとデメリットは
シュタイナー教育は、こどもたちが自ら考えて感じることを大切にしています。自分で判断して意思に基づいて行動できる人間を育成できる点が、世界的にも評価されています。
テストで回りの生徒との優劣を比較されることもないため、一人ひとりが自己肯定感をもちながら、自立心を育みお互いに違いを尊重する精神を育むことができるでしょう。
音楽や美術など芸術に関する活動も積極的に取り入れることから、感受性や表現力、創造力を豊かに育むことも期待できます。
保育園や幼稚園では、異なる世代の子どもたちで組む「縦割りクラス」を採用しているため、上の子が下の子の面倒を見たり下の子が上の子から学びを得る機会があります。
また、自分の立場や役割を認識する上で、縦割りクラスは有効です。わかりやすいのが上下関係の理解でしょう。下の子は上の子と接する中で、自分より年上であることや年上の相手に対する接し方を学んでいきます。反対に、上の子は自分より年下の子の面倒の見方を理解するのです。これは一般教育における同学年制とは違う点であり、異年齢クラス特有のメリットといえるでしょう。
現在の一般的な教育ではなるべく早い時期に子どもにさまざまなことを学習させる、詰込み型の早期教育が主流になっていますが、シュタイナー教育ではこどもの発達段階に合わせて、総合的な人間力を育てることを目標としています。こどもが持つ個性を尊重しながら、それぞれがもつ本来の可能性を伸ばしてゆける点が大きなメリットです。
ChatGPTが大流行し、AI技術の発達が凄まじい現代社会ですが、シュタイナー教育ではAI技術には真似することができない、芸術性、感性、霊性などを育みます。これからの時代にまさしく必要な教育ともいえるかもしれません。
シュタイナー教育を受けたいと思っても、日本でシュタイナー教育を取り入れている保育園や幼稚園、学校の数が日本では限られているため、教育を受けられる地域が限定されていることがデメリットといえます。
また、公立校とは学習内容や進み方に違いがあることから、転校などをした場合に学習面で分からないことが出てきたり、卒業後の進路で迷うことがあるようです。
授業がゆっくりと丁寧にすすめられるため、中には退屈してしまう生徒や学びのスピードがあわないと感じる生徒もいるそうです。
勉強を生徒の自主性に任せ強制しないため、言語や計算などの能力は生徒により個人差が大きくなる場合もあります。大学進学も十分可能ですが、学校で受験対策をしてほしいという保護者にはあまり向かないかもしれません。
シュタイナー教育を行う保育園や幼稚園では、お部屋の中で作業をする”てしごと”という時間を設けている園も多いですが、外で体を動かして遊ぶのが大好きな活動的なこどもだったり、こどもの持つ個性によってはシュタイナー教育があまり合わないケースもあるようです。
また、オーガニックな食事の実践や、プラスチック製ではなく手作りのおもちゃを推奨するなど細やかな方針もありますので、負担に感じる家庭もあるかもしれません。
シュタイナー医学ではワクチン接種を推奨しないため、シュタイナーの思想に共感している保護者や生徒もワクチンの接種率が低くなっており、海外ではシュタイナー教育を行っている学校内ではしかなどの感染症がひろまってしまった例も見られます。
人智学(アントロポゾフィー)とは
シュタイナー教育の大きな特徴は、人智学(アントロポゾフィー)を教育の基盤としていることです。人智学とはいったいどのような学問なのでしょうか。人智学は、ヘレナ・P・ブラヴァツキーが始めた神智学とつながりを持ち、目に見えない世界の法則を、人がより善く生きるために役立てることを目指した学問です。
神智学では瞑想や直感を通じて、神聖な知識を獲得し、高度な認識に達することを目指しているのに対して、人智学は、人が既に持っているのに発揮されていない感覚を磨き、見えない世界に在る法則を、より善く生きるために役立てていきます。
人智学はキリスト教を思想の中心においた独自の学問であり、「自然と宇宙の集大成が人間である」、「人間の集まりは宇宙における小宇宙である」といった考えを持っているため、シュタイナー教育では自然や芸術の要素をカリキュラムや、教育施設そのものに取り入れています。
ミドルセックス大学のピーター・ワシントンは、人智学についてこう解説しています。
ピーター・ワシントン『神秘主義への扉 現代オカルティズムはどこから来たのか』白幡節子・門田俊夫 訳、中央公論新社、1999年。
”
人間の存在とは感覚的な存在と感覚を超越した世界が統合されている存在で、
この点で人間は動物や天使と違っている。感覚を超越した領域には客観的な実体があり、現象世界も同様である。
人智学はその二つの間の人間の位置を研究する学問である。これは絶対に我々が持つことのできない神々の知恵ではなく、人間の慎ましい知恵であり、むしろ人間についての知恵というべきものである。
”
p. 215.
シュタイナー自身の人智学に関する著作は残されていませんが、晩年の1924年に、このような発言を文書で残しています。
”人智学は認識の道であり、それは人間存在(本性)の霊的なものを、森羅万象の霊的なものへ導こうとするものである。 ”
『人智学指導原則』第一条より抜粋”
人智学においては、シュタイナーの超感覚的観照(霊感)によって得られたという知識や法則が絶対の基準としてあり、
本質的なものであるとされ、検証は全く必要とされていないため、一般の人がその全容を把握するのは難しいところもあります。
シュタイナー教育自体は人智学の専門家を養成することが目的ではありません。
そのため、シュタイナー教育を受けるこどもたちに対してはシュタイナーのオカルト的ヴィジョンの教育はされませんが、自分自身がシュタイナー教育を学ぶなら、シュタイナーの思想においてオカルティズムは中心に位置するものであるため、避けて通ることはできないでしょう。
ルドルフ・シュタイナーと教育との関わり
ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)は、オーストリアやドイツで活動した神秘思想家、哲学者、教育者です。人智学(アントロポゾフィー)を提唱し、この思想は、医学や薬学をはじめ、教育や芸術、農業、社会学から企業活動まで、あらゆる分野でいまでも実践されています。
シュタイナーが、教育へ目覚めるきっかけとなった出来事が起こったのは23歳の頃でした。ある家庭から、11才半になる水頭症の少年の家庭教師を依頼されたのですが、その少年はまったく学習に関する活動を受け付けられない状態だったのです。
シュタイナーは彼に学習活動の代わりに、編み物などの手仕事への取組みを提案しました。手足を使った意志活動に集中した結果、わずか1年半で少年の頭は小さくなり学校へ通うことができるように。その後、少年はギムナジウムの課程を終えて医者になったのです。
シュタイナーはこのような経験と独自の人間洞察から、知的な学習は教育のほんの一部に過ぎないと考え、感情や意志に働きかける総合芸術としての教育を思い描きはじめました。芸術教育により、すべての子どもに共通する心身の発達プロセスを適切に整え、その上でひとりひとりのまったく異なる個性をそのプロセスの中に調和的に導き入れる。そのようなプロセスを通して、個性はとらわれのない自由を獲得できると考えたのです。
その後、第一次世界大戦の戦火の中で、健康な社会の立て直しには自由な人間精神の育成が必要であると考え、ルドルフ・シュタイナーは彼の社会改革構想の中核に教育を位置づけます。終戦直後の1919年、労働者の人間性回復に尽力していたタバコ工場主エミール・モルトの依頼に応え、彼は、労働者のこどもたちのための学校として自由ヴァルドルフ学校の創設アドバイザーを引き受けました。
シュタイナー教育の世界的ひろがり
1919年タバコ工場主エミール・モルトの依頼をうけて、シュタイナーが自由ヴァルドルフ学校の創設アドバイザーを引き受けたことをきっかけに、シュタイナー学校(自由ヴァルドルフ学校)運動は世界60数カ国に1,000校を超える広がりをもつ、世界規模の教育ムーブメントとなりました。ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニア地域で広がってきた学校は、今ではアジア地域にも急速に広がりつつあります。
日本でのシュタイナー教育 のひろがり
アジアではもっとも早く日本でシュタイナー教育が始まりました。1970~80年代に荒れる日本の教育現場への解決策を求めた人々の間で、シュタイナー教育への関心が高まったのです。
1987年日本初のシュタイナー学校、東京シュタイナーシューレが東京都新宿区の店舗住宅の一室で始まりました。表立った校内暴力の数が減っていく一方で、不登校の生徒が増え始めた時期です。1985年には不登校の生徒の居場所としてのフリースクールの先駆けとなった東京シューレが東京都北区で始まります。
はじめのうちは学校外での学びの場は少なく、公的に認められた教育機関ではないために就学義務違反のジレンマを抱えながらの活動でしたが、1990年後半には不登校児童が急増し13万人を超えたため、行政も学校外のこどもに対応せざるをえない状況になります。そして小泉政権下の規制緩和政策である構造改革特区制度を使ってフリースクールの法的認可を目指す運動が起こります。その結果シュタイナー学校としては2校が学校法人を取得し、自治体の協力の下で廃校を活用した学校づくりが始まりました。東京シューレも学校法人の中学校を設立します。
このような活動を通じて日本におけるシュタイナー学校の社会的認知も少しずつ進み、全日制シュタイナー学校の数も増え、フリースクール型のシュタイナー学校を選択するハードルも次第に下がっていきました。
シュタイナー教育 に関わる保護者の方へインタビュー
ではシュタイナー教育を受けている人たちは、なぜシュタイナー教育を選び、どのように感じているのでしょうか。実際のところについてお話をお伺いしてきました。
今日はお話聞かせてくれてありがとう。
Aちゃんはお子さんがシュタイナー学園に通っているんだよね。
シュタイナー教育を知ったきっかけって聞いてもいい?
友達がシュタイナーの幼稚園の先生をしてたんだよね。彼女からシュタイナー教育のことを聞いたんだ。クリスマスにはりんごろうそくを作ったりするって聞いて、興味をもったの。実際にりんごろうそくを持ったこどもを見てみたら、天使みたいで可愛くってさ。
そうなんだね、ほんとシュタイナーの世界観って独特で美しいよね。
自分のこどもにシュタイナー教育をうけさせようと思った理由ってあった?
いちばん最初はどちらかというと消去法で選んだ感じかな。
こどもに給食で毎日牛乳を飲ませたくないなとか、パンが多かったり、食の面にも疑問があるし。
教科書も、自分の小学校時代を思い出すとさ、教科によっては全然つまらなかったなって記憶があって。暗記ばっかりで…。
そうだね、「いいくに(1192)つくろう鎌倉幕府」とか、無理やり覚えた記憶あるな~。今になっては何の役にたつやらだよね。
そうそう。教科書の太文字を蛍光ペンでなぞって、覚えなきゃ〜!テストだ〜!みたいな。虚ろな感じだった‥。
それで、もう少し興味を持って知っていくうちにシュタイナー教育はこどもの成長過程に合わせて教育のカリキュラムができているお話を聞いて素晴らしいなと思ったよ。
歴史の授業にしても、ある1人の人物に迫って掘り下げていったりこどもがその世界に入りこんでいって学んでいるな〜と思うよ。
いまはまだ圧倒的に公教育を受けているこどもの方が多いと思うんだけど、シュタイナー教育を選ぶことに不安ってなかった?
わたしは全然なかったんだけど、はじめ夫は疑問に思ったみたい。「シュタイナー教育?公教育の方がいいんじゃない」って。
でもね、実際に入学してみて、今ではシュタイナー教育を選んでよかったねと言ってる。学校の建物や教室とか、身の回りにあるものの色や形のセンスが美しくて穏やかで、心が安らぐ。こんな環境で育ったら集中して学びができるし、想像力や心が豊かな子が育つよね、という風にありありと感じたみたい。
わたしもシュタイナー学園にはじめていったとき、今までこんな空間を見たことなくって感動した。とっても素敵だよね。学園に通っているこどもたちの様子はどう?
毎日とっても楽しそうに学校に通ってるよ~!校外学習も含めてこどもが興味を持っていきいきと学んでいる様子を見るとこんな素敵なことってないよね。
何よりだね~!それが一番大切だよね。
すこし気になっているのが、シュタイナーは8年同じクラスで先生も一緒って聞くけれど、クラスの中でいじめとかはないのかな?
ちょっとした問題とか、ないことはないんだけど、シュタイナー学園のいいところが担任と親同士で月に1回集まって話し合う場があるんだよね。
同じ学校に通うこどもの親の顔も知らないのが普通だと他の学校に通っている友達から聞いて、そうなんだ!と驚いたよ。
何か問題があったら、親同士のつながりもあるし、みんなで話し合って解決を目指していくからそういうつながり自体が貴重だし、安心だよね。学年をこえて顔と名前も知っているしね。こどもどうしも仲がよいよ。
それは本当に素晴らしいね。
逆に、これはちょっとシュタイナー教育の課題かなと感じているところとかある??
公教育では教育委員会があるんだけど、先生が対応が大変そうだな、と思うことがあるかな、、。授業の準備から何から先生の負担が大きいと思う、、。
Bさんの方がシュタイナー学園歴も長いしBさんにも聞いてみたらいいかも。
そうなんだね、Aちゃんありがとう!
息子さんご兄弟がシュタイナー学園に通われているBさんから、シュタイナー教育についてのお話ぜひぜひお聞きしたいです。
いいよ、俺でよかったら。
もともと色々なタイプの教育に興味があって。実家の本棚には子安さんの本が並んでて小さいころからその背表紙を見て育ったみたいな環境もあって(笑)、息子が公立小学校に入った後もいくつか学校を見学に行ったりしてたんだよね。
(森永注※早稲田大学名誉教授の子安美知子さんはルドルフ・シュタイナーの思想である人智学とシュタイナー教育を日本に紹介した方です。)
それで色々見て回った結果、代々木のオリンピックセンターでやっていたシュタイナー土曜クラスに通うことになりました。
(森永注※今でもシュタイナー土曜クラスは開催されています。東京シュタイナー こどもの会)
そこで出会った友達とは、息子が成人した今でも飲みに行ったり、親も含めて交流があるんだよね。シュタイナー教育の特徴のひとつに、コミュニティや豊かな関係性づくりもあるかもしれないね。
海外に住んでいたとき、子どもたちは3年間海外のシュタイナー学校/幼稚園に通っていて。
日本に帰ってからは、藤野のシュタイナー学園に通ったの。
息子に「海外のシュタイナー学校と違う?どんな感じ?」って聞いてみたことがあるんだけど「同じ」って答えたんだよね。
シュタイナー学校は、日本ではもちろん、世界中の学校ともコミュニケーションを取り合っているから、学校のある場所は違っても、授業のスタイルだったり、基本の理念が同じ教育をしているんだと思うよ。
あえて違いを挙げるとしたら…
西洋だと「学校は勉強をするところ、会社は働いてお金をもらうところ」ってはっきり分けて捉えることが多いと思うんだけど、日本は境界があいまいになってしまうことも多いかな。
学校が終わったら、指導は終わり。ではなくて、
放課後の習い事とかにも、「サッカーはあまり好ましくないですね」とか、ほんとにシュタイナーがそんなことを言ってたのかな?と思うようなことを注意されることもあったりね。
最終的に習い事をするかの判断は親に委ねられるんだけど、子どもの成長にふさわしくないと先生が感じた場合は、一定の年齢になるまでは控えたほうがよいのでは…とアドバイスをもらうことも。
えー!そんなところにまで。
ちょっと厳しいですね。シュタイナーは自由を大切にしているのに、
それって自由なのかな?と思っちゃいますよね。
自由への教育、だからね。
自由に何でもやっていいよ、というわけではなくて、将来的に自由に生きるためにこの時期はこうすべき的なところがある、というような感じかな。
シュタイナー学園の中にも、厳格なシュタイナー教育派と、そうでもない派とあっていろいろな考え方があるみたい。鏡をみてはいけないとか、星をみあげないようにとか、一見不思議に聞こえるようなことも、一部ではあるけれど厳格に守る人は守っているみたいだね。
昔はたぶんもっとコアなシュタイナー派が多かったかと思うし、教師と保護者で作る学校という意識が強かったようだけど、いまはそこまでの温度感があるのは一部なのかな。
いろいろオルタナティブ教育がある中で、シュタイナーを知って選んで学園に来た人とか、シュタイナー学園は今は学校法人になっているから、”サービスを受ける側”という意識で私立学校としてシュタイナー学園を選択した人とかも多いだろうしね。それが悪いことというわけじゃなくてね。
12学年あるわけだけど、上の方の学年と下の方の学年の保護者では、意識や行動も大分違うな~と感じるよ。
そうなんですね。
シュタイナー学園だと8年間同じクラスで同じ先生だと思うんですが、
合わないなと感じる場合もあったりするんでしょうか?
それはあるね。
毎年やめる人っていうのはちらほら出てくるよね。
授業はすごく面白いんだけど、それ以外の部分で先生の力量とかこどもと合うかどうか、あとは親と先生の相性とかもあるかな。保育園とか幼稚園を卒業して、小学校に上がる前に面接してもその年齢じゃ、その子の特性とか分からないこともたくさんあるからね。
あとはグレーゾーンの子が公立でなかなかうまくいかなくてシュタイナーなら、、とシュタイナー学園を選ぶこともあるんだけど、実は公立の方が特別支援学級とか制度は整っている部分もあるんだよね。公立自体がダメと思っている親もいるかもしれないけれど実際はそうでもない。
シュタイナー教育自体には療育の体制はあって、シュタイナー学園でも療育の体制を作ろう、というアイデアはずっとあるんだけど、リソースなどの問題からまだ具体的にはなってない。だから現時点(※2023年8月)でいうなら、グレーの子にとっては藤野のシュタイナー学園よりも、療育が整ったシュタイナー教育を行っている学校か、公立の学校の方が受け入れ態勢が整っているともいえるかもしれないね。
すごく意外なお話でした…!
シュタイナー教育に合っている子、合っていない子って
どんな子だと思いますか?
万人に合う教育ってないからね。甲子園に出たかったり、小さいころからサッカーやりたかったらシュタイナー教育は違うと思うよね。
芸術系が好きな子があっているかな。通っている子たちは本当に幸せそう。友達を超えた家族のような絆ができるしね。
逆に、卒業した子が、他から来た新しくできた友達と話していて、物足りないと感じることもあるみたい。シュタイナーだと、他の子と違う意見言わなきゃとかいう無言の圧に鍛えられるけど(笑)、そういう経験してないと、テレビや他の人の受け売りみたいな感じになっちゃうのかな。
そうなんですね、
シュタイナー学園を卒業してその後、みんなどのような進路に進むのかも聞いてみたいです
俺も知りたい!
息子の年齢だとまだ大学生の年だからね。芸術系目指す子も多いみたいだけど、学校や保育園の先生、医者、農業や環境系の道を目指している子など、色々いるみたい。でもみんながみんな、若くしてやりたいことを見つけて自分の道を歩きはじめるわけでもないよね。それがいいとも限らないかもしれない。いまは何をやろうか迷って30歳くらいになってやりたいことをみつけるというのもいいと思うし。
うちの息子はいまはまだ自分の進む道を探している最中みたいで、キラキラ輝いて頑張っている元クラスメイトの話を聞くと少しやきもきするところもあるみたい。
なかなか大学のときまでに自分の本当にすすみたいことを見つけるって難しいですよね。大学に限らず、大人になっても探し続ける人も多いんじゃないかなって思います。
他にはシュタイナー教育の特徴的なことってありますか?
シュタイナー教育では集中力はつくかもしれないね。好きなことを見つけたら一直線、みたいな。
あとはシュタイナーは土日行事が多めかな。
兄弟割引とかもあるけど私学だからそこそこ学費はかかるよね。9 年生まで月に45,000円
最終学年の12年生になると、12年劇という演劇とオイリュトミー、そして卒業プロジェクトという、シュタイナーで3大プロジェクトと呼ばれているものがあるんだけれど、
卒業プロジェクトでは、自分が興味のある1つのテーマをみつけてこつこつ積み上げたものをみんなの前で発表するんだよね。
最後卒業にむかって準備を積み重ねてきた発表をみると、とってつけたようなものに感じてしまう内容もたまにはあるんだけど、なんというか心に響いてくるものがあるよね。この3大プロジェクト、そして卒業式に至る過程は本当に圧巻、感動的で、世の中に光の子達が羽ばたいていくような感じがするよ。
いままでは学園の外の人には非公開だったけれどたしか去年ぐらいから、卒業プロジェクトの一般観覧も受け入れるようになったんですよね。
次回ぜひ観に行ってみたいです。
とても興味深いお話を聞かせてくださりありがとうございます。
シュタイナー教育 の参考書籍
シュタイナー学校のフォルメン線描
シュタイナー学校のフォルメン線描
ハンス・ルドルフ・ニーダーホイザー,高橋 巖 イザラ書房 1989-03
オイリュトミーの世界―ルドルフ・シュタイナーによって創始された宇宙神殿舞踊
オイリュトミーの世界―ルドルフ・シュタイナーによって創始された宇宙神殿舞踊
高橋 弘子 水声社 1998-10
おうちでできるシュタイナーの子育て 「その子らしさ」が育つ0~7歳の暮らしとあそび
おうちでできるシュタイナーの子育て 「その子らしさ」が育つ0~7歳の暮らしとあそび
著者名 クレヨンハウス編集部 出版社名 クレヨンハウス
0~7歳を大切にする シュタイナーの子育て クーヨンBooks1
0~7歳を大切にする シュタイナーの子育て クーヨンBooks1
著者名 月刊クーヨン編集部 出版社名 クレヨンハウス
シュタイナー教育の模擬授業 大人のための幼稚園・小学校スクーリング・レポート
シュタイナー教育の模擬授業 大人のための幼稚園・小学校スクーリング・レポート
著者名 大村祐子&ひびきの村/著 出版社名 ほんの木
【改訂版】ちいさな子のいる場所~妊娠・出産・私の家のシュタイナー教育~
【改訂版】ちいさな子のいる場所~妊娠・出産・私の家のシュタイナー教育~
著者名 としくらえみ/著 出版社名 イザラ書房
子ども・絵・色 ~シュタイナー絵画教室の中から~
子ども・絵・色 ~シュタイナー絵画教室の中から~
著者名 としくらえみ/著 出版社名 イザラ書房
家庭でできるシュタイナー教育
家庭でできるシュタイナー教育
著者名 大村祐子/著 出版社名 ほんの木
シュタイナー・コレクション1 子どもの教育
シュタイナー・コレクション1 子どもの教育
著者名 R.シュタイナー 出版社名 筑摩書房
シュタイナー教育 をうけられる学校(保育園・幼稚園・こども園)
生まれてから7歳までの子どもたちに必要なのはからだを育むこと。
子どもにとって朝起きてから寝るまでの生活リズムを規則正しくすることは、からだを作っていく上でとても重要です。
シュタイナー教育を行う幼稚園や保育園、こども園では、毎日の生活のリズムを整え、子どもたちが心地よく感じる環境づくりを大切にしています。
この時期の子どもは、体全体が感覚器であり、周りの環境を全身で吸収します。
手足で触れること、匂いを嗅ぐこと、色や音を感じること。あらゆる感覚体験がからだづくりの礎となります
子どもの持つ想像力を育て、この時期に必要な意志を育てていくために最適なおもちゃや環境を用意しています。
シュタイナー教育が受けられる保育園・幼稚園・こども園一覧はこちら
(小学校、中学、高校併設の有無まで)
シュタイナー教育 をうけられる学校(小学校)
8歳から14歳までの子どもたちに大切なのはこころを育むこと。
シュタイナー教育を行う小学校では、オイリュトミーやフォルメンなど、芸術教育を取り入れ、こころや感性を育てます。
フォルメン線描では、子どもたちの成長に合わせて、はじめは簡単な線描からより複雑に交差や広がりを持つものへと広がりをみせ、文字の導入や幾何学へとつながっていきます。水彩などの絵画や、美術や工芸を通じ、自分と世界との関係性を学び、自らの手で世界を創り上げることができることを学んでいきます。
シュタイナー教育が受けられる小学校一覧はこちら
(幼稚園、こども園、中学、高校併設の有無まで)
シュタイナー教育 をうけられる学校(中学校、高校)
15歳から21歳までの子どもたちは、知性を育てるのが大切な時期です。
シュタイナー教育を行う中学校、高校では、ひきつづきオイリュトミーやフォルメン、演劇など多彩な芸術教育が行われます。
その中で、身の回りの事象の法則性や関連を分析的に捉え、自らの行動への責任と着実さを育てていき、感情的になりがちな判断や行動を思考の力で冷静に制御できることを目指します。多角的なものの見方を育て、自分の考え方を客観的に見つめられるようにし、自分が社会的・経済的 ・政治的・技術的にどのように世界に働きかけられるのか、何ができるのか考えて、自由に行動を起こせる自発性を育てます。
シュタイナー教育が受けられる中学、高校一覧はこちら
(幼稚園、こども園、小学校、中学、高校併設の有無まで)
シュタイナー教育 における先生の役割
シュタイナー教育において、教育とは、こどもが自分で物事を考え、自由に意志決定を行うことができる人間となるための、「出産補助」であるという意味で、一つの芸術であると考えられています。そのため芸術としての教育を担う先生は、単に知識や伝統を伝えるのではなく、それぞれのこどもの中に秘められた能力や才能を見極め、それを開花するサポートをする「教育芸術家」という、難しくとても貴重な役割を担っています。
先生の自主性と自由な創造性が大切にされており、教育が行われる地域や生徒にあわせてその都度新しく授業を創造することを目指しています。そのため授業の前には多くの準備が必要となり、先生自身の創造性や自発性を育成する芸術的トレーニングやメンタルトレーニングも確立されています。
教師会で先生同士の情報交換も活発に行われ、会ではそれぞれの先生が捉えた生徒の様子を共有し、生徒の本質を多面的に理解することが目指されています。教師会には校医も参加することが多いようです。
教師と生徒との関係、そして世界との関係
子どもは、信頼によって教師と環境と結ばれ、世界を感知することにより、成長し学習する。ヴァルドルフ教師は、命に満ちた結びつきを創り出すために、特別の責任を担っている。青年期において、この結びつきは変化する。生徒は、今や、様々な分野から自分の前にある世界と出会い対峙し、自分自身の判断、感情、行為へと促されるからだ。
高等部の教員が、自分の専門を持ちつつも、若者たちが自分自身の要求を発見し、これからの人生を導き出していく勇気を持てるように、彼らと出会う能力があるかどうかが、決定的に大切になる。授業が上手くいくとは、生徒の中にさらなる質問を呼び起こし、彼らが退屈する代わりに、人と世界への関心を発展させ、それを示すことである。
日本シュタイナー学校協会「ヴァルドルフ教育の基本的特徴」 より引用
学校は、試験準備のための成績のプレッシャーが、心と体の健康な発達の要求とバランスを保つような解決方法を見出す。
シュタイナー教育 の先生になるには
シュタイナー教育がはじまってから、「教育芸術家」という困難な仕事を果たすことができる教員を養成し確保するかは、シュタイナー学校運動(ヴァルドルフ学校運動)の中心課題であり続けてきました。教員養成は質の高いシュタイナー教育を維持し、更なる発展の基盤をつくるためにもっとも重要な活動です。
ドイツ、アメリカ、イギリスをはじめ、世界各地でシュタイナー学校と併設する形で教員の養成に努める施設が存在しており、教員養成が行われているほか、近年日本でもいくつかの教員養成が開かれるようになりました。日本での教員養成講座の概要、開催スケジュールなどがこちらのHPに記載されています。
シュタイナー教育を受けた著名人
斎藤工
俳優から映画評論家、映画監督、バラエティなど、マルチにこなす才能が注目されている斎藤工さんは東京シュタイナーシューレ2期生です。斎藤工さんは、小さい頃(幼児クラス)からシュタイナー教育を学び始め、小学6年生まで在籍していたそうです。別の学校に転校したのは、サッカーが強い公立中学校に進学したいと考えたためだそう。
「俳優として一番大切なことは、シュタイナー教育によって培われた」とインタビューで語っています。
ミヒャエル・エンデ
はてしない物語やモモなど、数多くの名作を残した世界的に高い人気を誇る小説家、ミヒャエル・エンデ。
彼の描く物語の世界観にこんなに引き込まれるのは、シュタイナー教育によってつちかわれた想像力や感性あってこそかもしれません。
17歳の時にギムナジウムからシュタイナー学校へ転校しており、
エンデ自身もシュタイナーの理念が自身に与えた影響が大きいことを認めています。
村上虹郎
ミュージシャンUAの息子、俳優の村上虹郎さんもシュタイナー学園初・中等部卒業生です。
「8年間ずっと変わらない担任の先生とクラスメイトたちとまるで兄弟のように互いを深く知って、体験を共有したシュタイナーでの学びはいつまでも心強くかけがえのない時間です。」
とインタビューで語っています。
坂東龍汰
若手俳優の坂東龍汰さんは、3歳から18歳まで北海道でシュタイナー教育を受けていました。
演劇の教育カリキュラムがあり、卒業公演前の1ヶ月は朝から晩まで練習をしていたそう。
その卒業公演が役者の道を目指すきっかけになったと述べています。
サンドラ・ブロック
アカデミー主演女優賞を受賞した、ハリウッドを代表する女優のサンドラ・ブロックも
シュタイナー教育出身者です。
ジェニファー・アニストン
ブラッドピットの元妻としても有名な女優ジェニファー・アニストンもシュタイナー教育で育った1人です。
ルドルフ・シュタイナー・スクールに通ったことがきっかけで演技の楽しさ・素晴らしさに出会い、その後女優を目指すようになったと語っています。
フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ
ポルシェ創業者の長男で911のデザイナーとしても有名なフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェもシュタイナー教育出身者です。ドイツ出身でヴァルドルフ学校でシュタイナー教育を受け育っています。
おわりに
今回シュタイナー教育を学ぶ上で、教育自体の歴史について調べてみました。現代社会で生きていると、「教育」があることを当たり前のように感じてしまいますが、同じくらいの年齢のこどもを集めて教育する、という概念が出てきたのは実は近代になってからのことだそうです。近代以前は農民のこどもが親の姿をみて、いつ種をまいて収穫するのか学んだり、生活の中で教育が行われてきました。座学ではなく、実践として日常生活の中で自然に行われていたのです。歴史を遡ると、古代メソポタミア文明のシュメールで教育が行われていた記録が残っています。シュメールはいろいろな文明の人が集まり、交易もさかんに行われていた都市。交易をする際や、政府が人々をまとめ土地を管理するため、読み書きや計算が必要になるというニーズから行われていました。
その後民主主義が生まれ、社会が大きく変わるとともに教育も変化。シュメールやアテネ時代の教育が統治するための人材を育てるというものだったのとは真逆で、民衆の1人1人が自ら物事を考えられるようになるため、教育が必要であるという考え方に変わっていきました。
シュタイナーは「現代の人間はスズメバチのようである」とし、頭脳ばかり発達して意志が伴わない状態におかれている事を危惧しました。
再び社会の仕組みが大きく変容しているいまこの時期にも、自ら考えて、自由に意志を決定すること、すなわち生きる力を育むことこそが求められているのではないでしょうか。なにかひとつの正しい教育があるわけではありませんし、それぞれのこどもが持つ個性によって最適の教育はきっと異なってくるでしょう。それでもこのような時代だからこそ、教育にさまざまな選択肢があることを知り、我が子の才能や可能性を最大限に引き出すための道をなんとか見出したいものですね。
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