シュタイナーってどんな人?
ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)は、オーストリアやドイツで活動した神秘思想家、哲学者、教育者です。
シュタイナーは、晩年に「一般人智学協会」(普遍アントロポゾフィー協会)を創設し、それまでにも数千回もの講演を通じて思想を語り、多くの著作を残しました。
テーマは教育、芸術(オイリュトミーと呼ばれる舞踊など)、医学、農業、建築、経済など、多方面にわたります。「人智学」(アントロポゾフィー)とは、感覚世界と超感覚的世界を結ぶ精神科学の学問といわれますが、彼の思想や世界観は、物事を単に一面的にとらえるのではなく、常に全体を視野に入れるといった信念に基づき、ひとつの物事をいろいろな側面でとらえ、その基礎となる本質を見極めることによって、さまざまな事柄に応用していく、というものでした。
この思想は、医学や薬学をはじめ、教育や芸術、農業、社会学から企業活動まで、あらゆる分野でいまでも実践されています。
建築家としてのシュタイナーの略歴
シュタイナーは、建築を学ぶための教育は受けておらず、公的な建築家としての履歴は持っていませんが、自身の信念に基づく活動の場づくりとして建築に携わりました。
そのため既存の建築の枠には当てはまらない、他とは一線を画した独自の建築物を構築したとも考えられます。
シュタイナー自身の設計による建築物は、主にファースト・ゲーテアヌム(1922)と、セカンド・ゲーテアヌム(1928)のふたつでした。
他にも、ドルナッハ内外に住居を含む約12〜13の建造物を設計したと記録に残っています。
『シュタイナー・建築―そして、建築が人間になる(上松 佑二)』 によりますと、
”シュタイナーの生涯を考察する上で「建築」は殆ど中心的な役割を演じている。シュタイナーの思想は初めは理念として、言葉として、講演として、著作として展開されたけれど、言葉によるのとは別の表現手段で同じ内容を伝えようとし始めたからである。”
と書かれています。
建築家シュタイナーの代表作
ファースト・ゲーテアヌム(1922)
最初のゲーテアヌムはスイスのドルナッハにありました。
スイス連邦の北部、ドイツとフランスに国境を接する場所にバーゼルがあります。
この街から南へ約10㎞の所にある小さな町です。
ルドルフ・シュタイナーによってすべてが設計され、
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテにちなんで「ゲーテアヌム」と名付けられました。
ファースト・ゲーテアヌムは、1908年から設計が開始され、1913年に定礎され、1920年に一部が未完成ながらも開館。1922年に完成しました。
シュタイナー自らが外装・内装の設計を手がけています。
1922年12月31日、このファースト・ゲーテアヌムは何ものかによって放火され、焼失。わずか2年間の間ではありましたが、この間、オイリュトミー公演用劇場として用いられました。
この建物は、2連キューポラ(※溶解炉)構成を中心としており、円筒状の建物が二つ繋がった所に、長方形の建物が交差する形状をしていました。
建物の最高点は地上34メートル、ホール最深部から天井までの高さは26メートル、もっとも長い柱は14メートルでした。
セカンド・ゲーテアヌム(1928)
セカンド・ゲーテアヌムは、ファースト・ゲーテヌアム焼失の跡地に建てられました。
セカンド・ゲーテアヌムは建築におけるコンクリートの極めて先駆的な使用をしており、スイス国定史跡とされています。美術評論家のマイケル・ブレナンからは、この建物を「20世紀の表現主義建築の真の傑作」と評価されました。
建設工事の開始直後にルドルフ・シュタイナーが亡くなりましたが、1928年に未完成ながら一旦開館しました。その後、内部の造作には多くの月日がかかりました。シュタイナーは外観の設計のみ行いましたが、内装を設計しなかったのは「ファースト・ゲーテヌアムの再現でよい」と考えたからではないかと言われています。
中央講堂(ホール)は約1000席の客席を持ち、ファースト・ゲーテアヌム同様天井画が描かれ、側面にはステンドグラスがはめ込まれ、客席後方にはパイプオルガンが設置されています。これらの天井画やステンドグラスなどは、ファースト・ゲーテアヌムに設置されていたものを忠実に再現したものでした。
講堂は現在でもオイリュトミーの劇団のパフォーマンス、世界中からのパフォーマーの芸術コミュニティの中心となっています。
建築家シュタイナーの書籍
シュタイナー自身の建築家としての書籍は残されていませんが、
シュタイナー建築を理解するための参考となるものとして、このような書籍があります。
シュタイナーの美しい生活―建築から服飾そして言語
2005/8/1 ルドルフ シュタイナー (著)
シュタイナーの美しい生活―建築から服飾そして言語
シュタイナーと建築
1985/5/1 ペーター・フェルガー (著), 中村 静夫 (翻訳)
シュタイナーと建築
シュタイナー・建築―そして、建築が人間になる
1998/3/1 上松 佑二(著)
シュタイナー・建築―そして、建築が人間になる
世界観としての建築ールドルフ シュタイナー論
1974/1/1 上松 佑二(著)
世界観としての建築ールドルフ シュタイナー論
シュタイナーを学ぶ本のカタログ
2002/7/1 ほんの木(編)
シュタイナーを学ぶ本のカタログ
新しい建築様式への道
1977/1/1 ルドルフ・シュタイナー (著) , 上松 佑二 (翻訳)
新しい建築様式への道
建築に関するものを主にあげてみましたが、シュタイナーが提唱した「人智学」が常に全体を視野に入れるといった信念を持っている以上、シュタイナー関連の書籍から建築分野だけ抜粋することは、いささか乱暴かもしれません。
内装の色合いが人間の精神にどのような影響を与えるかを考えれば、色彩関連の書籍もシュタイナー建築を知る上で重要となってきます。そもそも、建築は彼の信念に基づく活動の場づくりとしてはじめられたのですから、シュタイナーの思想についての書籍もはずすことはできないでしょう。
参考サイト
「シュタイナー研究室」シュタイナー邦訳関連書籍目録
(2002年11月3日現在)
シュタイナー建築とは?
(概要、特徴、他の建築との違い)
人間は物質の世界だけでいきているのではない、と精神世界の重要性を説いたシュタイナーの思想は、彼の建築においても色濃く表れています。
建築物の中で過ごす人間の精神への働きかけを重要視し、色彩や形状に強いこだわりをもって内装・外装ともに建築されました。
シュタイナーの建築は、伝統的な建築の制約からの解放によって特徴づけられます。
ファースト・ゲーテアヌムでは、丸みを帯びた形を構築するため船大工の協力を得ました。セカンド・ゲーテアヌムでは、彫刻的な形状を再現するためにコンクリートを積極的に用いました。当時は、コンクリートの徹底した使用は画期的なことでした。
両方のゲーテアヌムに置いて、シュタイナーは霊的に表現力のある形を作成するよう務めました。いずれのゲーテアヌムも、西側から東側へと向かう方向性を内装や人の動線に持たせています。
1960年にドイツで生まれた「バウビオロギー」という、健康や環境に配慮した建築について考える学問がありますが、シュタイナーの考え方と似通った部分も多く、バウビオロギーを学ぶことはシュタイナー建築を理解するのに参考になる部分も多いはずです。
「バウビオロギー」とは、「建築(バウ)」と「生命(ビオ)」と「精神(ロゴス)」からなるドイツの造語であり、日本語では「建築生物学・生態学」と訳されるものです。建造物を建築の学問のみで捉えずに、広く生理学・心理学・生態学・造園学など人と環境にまつわるさまざまな観点から考えます。
バウビオロギーという思想は、マニュアルではなく全体性で考えるもの。
シュタイナー建築もまさしく、単なる建築という分野を超えて、自身の教育の場として、その場で過ごす人間を中心に据えて考えていた、ということがよく分かる発言がありました。
『シュタイナー・建築―そして、建築が人間になる(上松 佑二)』の中でこのような記載があります。
“1924年シュタイナーは「学校建築とは、芸術的に造形された有用建築である」と語っていたという。
その建築理念は単に機能的なものではなく、芸術的かつ有機的なものであり、内容と形式が一致したものである。
それが学校建築であれば、その中で教えられる教育内容に対応した教育空間がつくられることになる。その内容が生き生きしたものである限り、その器もまた生き生きしたものとなる。
その内容が子供の成長と発展に対応したものであれば、その器としての建築もまた子供の成長と発展に対応したものになる。
その教育理念が人間の肉体と魂と精神の健全な発展に基づくものであれば、その器としての建築もまたそれに対応したものとなる。
しかも学校建築はそれぞれの国や地域の物理的、心的、精神的風土に合致したものとなる。
それぞれのヴァルドルフ学校がそれぞれの国にふさわしい内容をもつように、学校建築もまたそれぞれの国にふさわしいものとして建てられている。”
日本のシュタイナー建築家
日本におけるルドルフ・シュタイナーの建築の建築家としては、以下のような人がいます。
伊藤壽浩
伊藤壽浩氏主宰の伊藤設計室公式サイトのスクリーンショット
石川恒夫
石川恒夫氏が教授をつとめる前橋工科大学公式サイトのスクリーンショット
岩橋亜希菜
世界のシュタイナー建築家
世界におけるルドルフ・シュタイナーの建築の建築家としては、以下のような人がいます。
パウル=ヨハン・バイ
マックス=カール・シュヴァルツ
アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトや、フランスの建築家ル・コルビジュエはシュタイナー建築家ではありませんが、彼らもゲーテアヌムを高く評価しています。
シュタイナー建築でたてられた建物(日本)
シュタイナー学園(神奈川県相模原市)
神奈川県相模原市にある、シュタイナー学園公式サイトのスクリーンショット
横浜シュタイナー学園(神奈川県横浜市)
神奈川県横浜市にある、横浜シュタイナー学園公式サイトのスクリーンショット
らのみな認定こども園(東京都新宿区)
東京都新宿区にある、らのみな認定こども園公式サイトのスクリーンショット
古民家のお寺「浄泉寺」(埼玉県比企郡)
埼玉県比企郡にある、「浄泉寺」(埼玉県比企郡)公式サイトのスクリーンショット
おもちゃ屋MOMO(群馬県高崎市)
群馬県高崎市にある、おもちゃ屋MOMO公式サイトのスクリーンショット
認定こども園 りのひら(福島県須賀川市)
福島県須賀川市にある認定こども園 りのひら公式サイトのスクリーンショット
ひとつぶ(愛知県)
愛知県にあるひとつぶが”まなびそあ”で紹介されたページのスクリーンショット
あげつまクリニック別館ノヴァリウム(愛知県豊田市)
愛知県豊田市にあるあげつまクリニック別館ノヴァリウム公式サイトのスクリーンショット
京田辺シュタイナー学校(京都府京田辺市)
京都府京田辺市にある京田辺シュタイナー学校公式サイトのスクリーンショット
学校法人むそう学園夢窓幼稚園(京都市右京区)
京都市右京区にある学校法人むそう学園夢窓幼稚園公式サイトのスクリーンショット
太平寺幼稚園(大阪府堺市)
大阪府堺市にある太平寺幼稚園公式サイトのスクリーンショット
教育空間ちあはうす(大阪府交野市)
大阪府交野市にある教育空間ちあはうす公式サイトのスクリーンショット
シュタイナー生活介護事業所「にじいろのおうち」(大阪府大東市)
大阪府大東市にあるシュタイナー生活介護事業所「にじいろのおうち」公式サイトのスクリーンショット
神戸女子大同窓会館(兵庫県神戸市)
兵庫県神戸市にある神戸女子大同窓会館公式サイトのスクリーンショット
日本においてシュタイナー建築でたてられている建物は、主に学校や幼稚園、病院などが多いようですが、Lemniskate 1級建築士事務所主宰の岩橋亜希菜氏が、神奈川県旧藤野町(現相模原市緑区)にて個人宅の設計も請け負った事例が見つかりました。
参考サイト
芸術と自由を尊ぶ暮らし美しさに日々癒される、シュタイナー思想に基づく家 | Architecture | 100%LiFE
岩橋亜希菜氏は、「横浜シュタイナー学園」や、「らのみな認定こども園」の設計をし、また「認定こども園 りのひら」の設計では、令和2年に第36回福島県建築文化賞にて優秀賞を受賞されるなど、人気と実力を兼ね備えた建築家です。
もしもご自分でもシュタイナー建築で家を建てたいと思う方がいましたら、
Lemniskate 1級建築士事務所(東京)にご連絡をとってみてはいかがでしょうか。
シュタイナー建築でたてられた建物(世界)
- ハイツハウス(Heizhaus)
- グラスハウス(Glashaus)
- ハウス・ドゥルデック(Haus Duldeck)
- ルドルフ・シュタイナー・ハルデ(Rudolf Steiner Halde)
- ホッホアトリエ(Hochatelier)
- 青い変電所(Transformatorenhaus)
- シュパイゼハウス(Speisehaus)
- スイス シュタイナーハウス(Steiner House)
スイス北部ドルナッハに、シュタイナーが建設したゲーテヌアムを中心に、独特のフォルムと魅力を兼ね備えたシュタイナー建設でたてられた建築物が現存しています。
参考サイト
ルドルフ・シュタイナーの建築をめぐる旅 スイス北部、ドルナッハへ – NewSphere | Signpost
美しい写真の数々を見ていると、ドルナッハへ実際に足を運んでみたくなりますね。
ドルナッハに行くためには、まずドイツ、フランス、スイスの3つの国の国境の街バーゼルに向かう必要があります。バーゼルからは、電車で約3駅ほどでドルナッハ駅へ、そこからは歩いて約10分ほどでドルナッハの町へ到着します。
日本からスイスにあるバーゼルへの直行便の飛行機はなく、乗り換えが必要です。東京・羽田空港からフランクフルトへは全日空(ANA)が1日3便運航しており、所要時間は12時間です。フランクフルトからバーゼルへはスイスエアラインズで45分程度になります。
シュタイナーは生前、数千回もの講義を重ねましたが、その中に「労働者(アルバイター)講義集」というものがあります。これらの百以上の講義は、ゲーテアヌム建築に携わった労働者たちから午前の休憩時に出された質問に基づくものです。シュタイナーは、参加者グループからその都度自由に寄せられた質問とテーマを引き受けました。その内容は、宇宙と人間の創造から、キリスト教の本質についてや、いかにして霊的世界の観照に至るかなど非常に多岐にわたっています。
この場所でそのような問答が行われていた1920年代当時に思いをはせて、ドルナッハの街並みを思いのままに探索してみるのも興味深いかもしれませんね。
参考サイト
「シュタイナー研究室」シュタイナー全集/ゲーテアヌム建築に携った労働者のための講義録
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