オルタナティブとはどういう意味か
オルタナティブ(alternative)とは「代替」や 「既存・主流のものに代わる何か」、「もうひとつの」という意味を持っています。たとえば医療分野で「オルタナティブ医療」とは、民間療法・代替医療と呼ばれる、漢方や鍼灸治療等のように、通常の医療に代わる医療がそれに当たります。ルドルフ・シュタイナーが提唱したアントロポゾフィー医療もオルタナティブ医療といえるでしょう。
教育分野で「オルタナティブ教育」とは、これまで主流だった文部科学省が管轄している学校教育とは異なる教育システムを指しています。具体的には、シュタイナー教育やモンテッソーリ、あるいはフリースクールのような不登校の生徒などを対象としたものが該当します。現在の教育制度では対応できないニーズを埋める、新しい教育を意味しています。
こちらの記事では、オルタナティブ教育について特集をしていきます。
日本におけるオルタナティブ教育の意味と立ち位置
日本の一般教育においては「学校教育法」に基づき、学校を運営しています。文部科学省が定めたルールをもとに目的や学習内容が定められ、運営している学校は「一条校」と呼ばれ、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学(短期大学、大学院)、高等専門学校などが当てはまります。
日本の学校教育には、一般的な公教育の他に、インターナショナルスクール、留学や特別支援学校、そしてオルタナティブ教育が存在しています。
オルタナティブ教育といっても、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育などの文部科学省が定める教育方針以外の教育思想を取り入れて運営されるオルタナティブスクールや、不登校や療養などで学校に通うことができない子どもを支援することを目的としたオルタナティブスクールとしてのフリースクールの2種類に大きく分類することができるでしょう。
新しい教育思想で運営されるオルタナティブ教育としては、主にシュタイナー教育、モンテッソーリ教育、イエナプラン、レッジョ・エミリア、ドルトンプラン、サドベリー、フレネ、風越学園、自由の森学園などがあげられます。フリースクールは、それぞれの地域によってNPO法人がいくつか学校を立ち上げています。
オルタナティブスクールの場合、通常小学校・中学校・高等学校での卒業資格を得られないところも多くなっています。
一部では卒業資格が手に入るものの、ほとんどは国が認めた「学校」という部類に当てはまらないため、法的な資格が得られません。在籍する学校と連携がされている場合には、オルタナティブスクールへの通学でも出席の扱いになり、卒業資格が得られる場合もありますが事前の確認が必要になります。
日本の一般教育とオルタナティブ教育の違い
日本の公教育である小中学校や高等学校での学びは、教科や指導要領などが決められています。これに対して、オルタナティブ教育の場合は、学校教育法には基づかず独自の方針をとっているため、通うところによってその特徴は大きく異なります。さまざまなオルタナティブ教育が存在していますが、一般教育との主な違いとしては、以下のようなことがあげられるでしょう。
・通常の小学校・中学校・高等学校での卒業資格を得られないことが多い
・通常の学校と連携している場合は、卒業資格を得られる場合もある
・同じ学年のクラス割としている場合が少なく、異年齢・縦割りで過ごすことが多い
・決まった時間割を設けていない学校もある
・文科省が定める教育方針以外の教育思想を取り入れた教育をしている
オルタナティブ教育のメリット・デメリット
オルタナティブ教育といっても、それぞれの教育方法によって違いはありますが、主なメリットとデメリットとしては、以下のようなことがあげられるでしょう。
メリット
・自主性が身につく
・子ども本来の力を伸ばす
・結果よりもプロセスを大切にする教育が受けられる
・異年齢でさまざまな人とかかわるためコミュニケーション能力が育つ
・自ら考え、問題解決しようとする力がつく
・本物に触れる・見る・感じる教育が受けられるため、感性が磨かれる
デメリット
・オルタナティブ教育を行う学校の数は国内ではまだ少ないため、通える地域が限られている
・学費が高額であり自己負担である。基本的には公的な経済的サポートは受けられない
・公立・私立学校とスクールに連携がない場合は、卒業資格が得られない
・オルタナティブ教育がどんな子どもにも合うとは限らない
・学習内容が公教育の内容とは異なるため、転校した場合に公教育の授業内容にとまどう可能性がある
また、オルタナティブ教育を行う学校の課題として、経済的なスクール維持の難しさがあげられます。国の支援を受けられないスクールが多く、人件費や施設維持費は学費でまかなうしかありません。無料(税金)で通える公立学校に比べると、生徒を集めること自体も難しいのが現状といえるかもしれません。
オルタナティブ教育がおすすめのケース
オルタナティブ教育では、年齢別のクラス編成やカリキュラムに縛られず、子ども一人一人の性格や成長にあわせて向き合い、学び体験することを重視しています。日本の公教育で行われている授業のように教師が一方的に教え、それを聞いたりノートをとるようなスタイルだけではありません。
では、どのような子どもや保護者にオルタナティブ教育が合っているのでしょうか。
・子どもの自主性や自立、主体性を育みたい
・子ども自身のペースで勉強をさせたい
・学区内の学校が肌に合わず、通えない
・少人数制の学校へ通わせたい
・子どもや家族のニーズに合った細やかなサポートを得たい
といった方におすすめと言えますが、オルタナティブスクールにもさまざまなスタイルや教育方針・理念がありますので、一概には言えません。それぞれのオルタナティブスクールでオープンスクールなど、実際に見学や授業を体験できる日を設けていますのでまずは実際に体験してみることがおすすめです。
オルタナティブ教育を選んだ保護者の方にインタビュー
実際にオルタナティブ教育を選び、お子さんをシュタイナー学園に通わせていらっしゃる保護者の方に、オルタナティブ教育を選んだきっかけや実際のところのお話をお伺いさせていただきました。
今日はお話を聞かせてくださりありがとうございます。
オルタナティブ教育のひとつのシュタイナー教育を
選んだきっかけをお伺いしてもよいでしょうか?
中学校1年生3学期から娘が学校にいかなくなったのが1番のきっかけなんです。娘はHSCの傾向があるようで、聴覚や視覚などすべての感覚が鋭いタイプなんですよね。うちの娘にとっては公的な学校があっていなかったみたい。
はじめから藤野に来てシュタイナー学園に通わせてあげられたら、辛い思いをさせることもなかったのに…という思いも出てくるときもありますが、住んでいる場所や仕事など当時は動けない事情があって、そのときはそのときで最善の選択をしてきたんだから、と今は納得しています。
公立の中学校に我慢して通っていたときは、娘にとっては本当につらかったみたいで。後になってから
「義務教育のうちはどんなに辛くてもいかなければいけないと思ってた」
話してくれたこともあったんですよ。
そうだったのですね。
シュタイナーの学校は公立とはやはり違う環境なのでしょうか?
こども園のときにシュタイナーの園に通っていたのですが、すごく静かな環境なんですよ。静と動のリズムの繰り返しで生活をしていて、機械音などもないですし。
公立の小学校は通っているこどもの人数が多いのもありますが、はしゃぎ声がきゃーきゃーうるさく感じてしまったり、大きな音量の放送などが辛かったようです。
娘は小学校を卒業して、中学にも通っていたのですが、ちょうどコロナが世の中で流行りだし休校等があり、半年程経った頃中学1年の3学期頃より身体に不調が出てきて、小児科を受診。
そのときカウンセラーの先生を紹介してもらっていました。
そして娘はいま身体も心も疲れた状態だから、まずはゆっくり休もうと決めて、あう場所を探し始めました。
娘にあう場所を探す中で、市役所に相談に行った際に教育支援センターを紹介してもらいました。
教育支援センターは、各市町村にひとつずつはあります。学校に行けない生徒が自習するのをサポートしてくれたり、精神的なサポート、やさしい声かけをして下さいます。みんなで畑をつくったりゲームをしたりと、プレ学校のような存在で、市が運営しているので無料なんですよ。スタッフの方が手厚く接して下さいました。
教育支援センター、はじめて名前をお伺いしました。今はそんな場所があるのですね。公的機関で相談できたり頼れる場所があるのは心強いですね。
本当に。まずは通える場所ができたのでよかったのですが、当時は高校をどうしようか悩んでいましたね。
そんなとき、ちょうどシュタイナー学園で途中編入の募集を見つけたんです。
もともとシュタイナー教育のことは知っていて、娘も小学校くらいのときから、シュタイナーの学校にすすみたいなと何度か話してくれていたんですけど仕事や家の事情があって当時はあきらめていて。
このタイミングで娘に「シュタイナー学園に入りたい?」と聞いたら、入りたいと。中二の秋に編入試験を受けることになり、シュタイナー学園に受け入れてもらうことが決まりました。
こども園のときからシュタイナー教育を受けて家庭でも実践してきて、
その良さは実感していましたし、入れて本当によかったなと思いますね。
シュタイナー学園に通うためには、家族が離れて暮らすことになったりして、お金はかかるけれど、娘が通いたいというなら新しい形での暮らしをはじめてみようと思いました。
こちらでシュタイナー学園に通われるようになってから、娘さんのご様子はどうですか?
中学3年のときに藤野に引っ越してきてだいたい一年半くらいになるんですけど、いい方向に成長して変わっていっているなというのを感じます。
何よりも学校のこどもたちがすごく優しいんですよ。
保護者の方たちも。
公立は、場所にもよると思いますが
スクールカーストやいじめが多少はあるように感じます。
今の教育がこどもたちにあっていなくてストレスになってしまって、
そのはけ口として今のような状況になっているのかも…。
今いじめが起こっているのは、
こどもたちが悪いのではなく、教育に課題があると感じることがあります。教育現場は大人たちの社会の縮図になっていると感じます。
シュタイナーのこどもたちが優しいのは
こどもたちに無理をさせていないのも理由のひとつなのではないでしょうか。そのうえで、必要な成長発達の教育はきちんとしている。
本当にその通りだと思います。
シュタイナー学園に入られてみて、他にも素晴らしいなと感じたことはありますか?
シュタイナー教育はのんびりと思われることもあるようですが、
高校はなかなか授業内容も難しいんですよ。
先生のお話を聞いて、自分でノートにまとめて
それを清書で書きあげて学ぶという形をとっていて。
授業に向かう態度も見られますし、
とても高度な学びを提供してくださっているなと。
詰込み式の授業ではなく、大人になってから本当に必要になってくる力をつけてくれるような教育ですね。
そうなんです。
このまえは農業実習という体験があったんですが、
3週間親元を離れて集団生活をしながら朝から夕まで
農家さんの元で農業体験をしてきました。
携帯や電子機器は持ち込みNGで、お手洗いも水洗ではないような九州の自然豊かな場所で、馬小屋をリノベーションした大部屋でみんなと一緒に生活して。
農業実習の後に、保護者や先生みんなで集まる機会があったのですが
どの保護者の方からも
「農業実習から帰ってきて、本当に成長した」という声がでていました。
適した年齢で必要な実習が組み込まれているのもシュタイナー教育の魅力ですね。
素晴らしいですね。
いまの日本でなかなかこんな経験ができる学校はありませんよね。
シュタイナー学園で、ここが改善したらもっとよりよくなるのではという風に感じられることはありますか?
うーん、難しいですね。
シュタイナー学園に限って言えば
現状での問題はとくに感じておらず、不満などはないのですが
先生の高齢化や、新しい先生の成り手が足りないとも聞きますね。
そうでしたか。
公立の学校に通われていた時に感じた課題なども、もしありましたらお聞かせいただけますか?
公教育にもよいところはたくさんありますし、
都市部の公立の学校がすべて悪いわけでは全くないのですが
詰込みすぎ、というのはひとつの課題としてあると思います。
変わった親御さんも増えてきているようだし、先生の負担がすごい印象です。
昔は先生って尊敬される存在だったように思いますが、いまは先生を尊敬していない親も増えているようです。子どもの前で先生のことを批判するような保護者の方の姿をみて一部の子どもも先生のことを呼び捨てで読んだり、小バカにするような態度になっていてしまったり、、。
なんだか昔と今で、先生との距離感やこども、保護者のイメージがだいぶ違ってきているようにも感じますね。
そうなんです。
去年からシュタイナー学園の入学者がすごく増えていると聞いたのですが、その中に「シュタイナーだから入学したい」という以外の理由で入学希望をされた方も多かったと聞きます。
公立だと小学校1年生からPCがカリキュラムに組み込まれていて、それが嫌だと感じる方たちの受験も目立ったようです。
公立の場合は休校の日にはタブレットを使って遠隔授業などもあるんですよね。低学年の子にはタブレットは目に負担になってしまうのではとも思うこともありますね。
親が働いていると、こどもは早くから携帯を持ちたがるという話もよく聞きますが、息子が公立の学校に通っていた際、まだ小学校4年生のときでもクラスの友達は大体携帯をもっていました。
小さいころからメディアにさらされていることで、親も知らないようなトラブルに巻き込まれたという話もいくつも聞いて。
よいことと悪いことがちゃんと判断できる倫理観がみについていないうちにメディアにふれるのは大きな危険があるように感じます。
シュタイナー学園では9年生のときに情報の授業を受けるのですが、その授業を受け終わるまではなるべくメディアに触れさせないでと学校から伝えられます。
でもね、そこからのこどものパソコン等の理解に対しての成長がすっごく早かった。授業を終えて、パソコンに触れるようになってから、情報の集め方や活用の仕方をすごいスピードで学び、いつの間にかパワポでまとめたりしていて、いまでは大人のわたしよりも既にパソコンやメールの活用に熟達しています。笑
後からでもちゃんと見につくし、小学校1年生からタブレットを持たせる必要はそんなにないんじゃないかな。
パ、パワーポイント。。
PCを開くのさえおっくうなわたしからすると、
その年にして既にメディアを活用されている娘さんが眩しいです…!
公立の小学校や中学校を経験してからシュタイナー学園にくると、なおさらシュタイナーの良さを感じることがありますね。
こどもたちを8年間責任をもって担任として見続ける、ということ自体
先生の覚悟が違いますよね。
こどもも成長するにつれて、はじめは先生大好き~!って感じだったのに、思春期や反抗期を迎えると先生に反抗的な態度になることもあるようです。
でも先生は
「それは成長過程の中で、当たり前で必要なことです。逆に反抗期がない方が問題です」とまっすぐに受け取ってくださる。
公立の中学校などだと、先生に反抗すると、内申や評定に関わるから
”いい子”を演じる子もいると聞きます。
お話をお伺いしていると、いまの公教育の現場はこどもたちや先生にとって、想像以上に厳しい状況がありそうですね。。。
いまの日本では昨年度の小中学生の不登校児の数が30万人になるそうです。
日本の今のこどもたちといまの教育があっていないことの現れなんじゃないかな。
ほとんどの子が公教育を受けていますし、すべて悪いわけでは全くないにしろ、日本の今の状況だと不登校って誰にでも可能性があることなのではと感じています。
公教育も、こどもたちにあった教育へと変化していく時期なのかもしれませんね。
頭がよくっても人間関係を築くのが難しくてお仕事につくのが難しいというようなケースも身の回りでよく見聞きしますし、こどものうちは迷う時期があってもいいのではと感じますね。
大学までまっすぐ進んでも、休学する人や、就職してもすぐに辞めてしまったり、鬱で悩む人も増えているみたいだし。
公教育で、活発な運動部に入っていたりすると、朝練ではやくから学校にきて、部活や塾で夜も遅くまで頑張って、大人よりもハードな毎日を送っているという話もよく聞きます。
すごいですよね。
小さいころからそんなに頑張っていたら燃え尽きちゃいそうです…
そうそう、こどもの頃から頑張りすぎなくっていいじゃない。
こどもに”こども時代”を過ごさせてあげたい、そんな思いもあって、シュタイナー教育にたどりつきました。
たとえ大人になって辛いことがあっても、こどもの頃の楽しかった記憶があると力になったり、いざという時にふんばれると思うんです。
シュタイナーの先生が素晴らしいなと思う理由に、こどもの気質をみてくれる、ということがあります。
公教育だと、おとなしい子には、もっと積極的にとか指導をされることもよくありますが、完璧で理想的な大人がいないように、こどももそれぞれの性質をもっていますよね。
公教育で辛い思いをしていたとき
「同じ枠、同じ空間に閉じ込められて、みんなと同じことをしなければ…って頭がおかしくなりそう」と、娘が言っていたこともあったな。
シュタイナーでは、おとなしいから評価をしない、ではなく、全体をみて将来を思って関わってくれているというのを感じます。
理想とする枠に無理やり押し込められるのは、大人もこどもも苦しいですよね。
シュタイナー教育ではこどもを、個性をもった1人の人間として尊重して接してくれるのですね。
そうなの。
1人の人を育てるのに、村1つの人が関わる必要がある、
ということをシュタイナーが言っていたのですが
昔は確かにそうだったかもしれませんが
いまの日本だとなかなか難しいものがありますよね。
藤野に引っ越してきて、ここは学園の人も多く住んでいるし、地域の方たちがとてもやさしくってこどもを育てる環境として、すごく恵まれているなと感じます。
シュタイナー学園だと12年生まであるので、たとえ小さい頃はヤンチャをしていても12年生になると、あんなにまっすぐな青年に育つんだという成長していく姿を大人も子ども達も身近に見ることができます。
だから、少し目立つような子がいたとしても、今はそういう過程にいるんだよね、と周りの方たちもあたたかい目で見守ってくれる環境がある。
低学年の子たちも立派なお姉さんやお兄さんたちの姿をみて、たくさんの影響を受けているようです。
何かや誰かを問題視して切り離すのは何も問題を解決しないばかりでなく、最終的により問題を大きくしてしまうようにも感じますね。
そもそも自分のこどもがそういったヤンチャな時期を迎えるときもあるかもしれないし、、、
どのようなこどもも否定したり排除せずに受け入れるという環境はとてもあたたかく、安心できます。
そうなんです。
シュタイナーは共同体を大切にしていて。
ただそこに学校があるだけでは学校とはいえない。
個々の力を発揮しつつ、互いに助け合う共同体としての機能がなければ、という考えをもっていて。
シュタイナー学園は人数も多いですので、いろいろな課題もあるのですが、とても大切なことだと感じています。
そのせいか、お話をお伺いしているとシュタイナー教育に関わる方は、人間関係のゆたかなつながりを魅力として伝えてくださる方が多いようにも思いますね。
今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
日本のオルタナティブ教育の歴史
「オルタナティブ教育」は、教育の標準化が進み初等・中等教育が義務となった19世紀の間に生じた考えです。はじめヨーロッパやアメリカなどで「子供の自主性を尊重し、自立する力を鍛える」教育方法として広まりをみせました。
1920年代の大正デモクラシーの時期、日本に海外から様々な新教育が紹介され、小さい規模でありながら自由主義教育の実践が行われてきましたが、20世紀後半になり、校内暴力や不登校、学級崩壊など荒れた公教育現場に対して問題意識が持たれました。公教育への対案を求める人々の間に、公教育に代わるものとして、シュタイナー教育やモンテッソーリ教育などのオルタナティブ教育が広まり始めました。
他にも詰め込み式の勉強法に疑問をもったアメリカの教育家ヘレン・パーカスト氏が提唱したドルトンプラン教育や、授業も何の強制もないサドベリー教育など、さまざまなオルタナティブ教育がヨーロッパやアメリカから普及します。活動当初はオルタナティブ教育を行う機関は公的に認められた教育機関ではないため、就学義務違反のジレンマを抱えながらの活動でしたが、1990年後半には不登校児童が急増し13万人を超えたため、行政も学校外のこどもに対応せざるをえない状況になります。そして小泉政権下の規制緩和政策である構造改革特区制度を使ってフリースクールの法的認可を目指す運動が起こり、
シュタイナー学園をはじめ、学校法人を取得したオルタナティブ教育機関も現れ始めました。
オルタナティブ教育に分類される教育の紹介
シュタイナー教育
哲学者であるルドルフ・シュタイナーが提唱し、1919年にドイツで創立した「自由ヴァルドルフ学校」において取り入れられました。約100年もの歴史があり、今では世界60か国で取り入れられているシュタイナー教育は、すべての子どもが持っているユニークな個性を最大限に発揮できるよう尊重する教育法です。
「からだ」「こころ」「あたま(知性)」の成長のバランスを重視し、7年ごとの周期で捉える子どもの成長過程に合わせた、芸術的かつ体系だったカリキュラムが特徴です。
シュタイナー教育についてもっと詳しく
すべての子どもが持っているユニークな個性を最大限に発揮できるよう尊重する
シュタイナー教育についてもっと詳しく
シュタイナー教育が受けられる学校
毎日の生活のリズムを整え、子どもたちが心地よく感じる環境づくりを大切に。
シュタイナー教育系の保育園・幼稚園・こども園一覧
オイリュトミーやフォルメンなど、芸術教育を取り入れ、こころや感性を育てる。
【日本全国版】シュタイナー教育系の小学校一覧
多角的なものの見方を育て、自分がどのように世界に働きかけられるのか考え、自由に行動を起こせる自発性を育てる
シュタイナー教育系の中学、高校一覧
シュタイナー教育を受けた著名人
ミヒャエル・エンデ
はてしない物語やモモなど、数多くの名作を残した世界的に高い人気を誇る小説家、ミヒャエル・エンデ。
彼の描く物語の世界観にこんなに引き込まれるのは、シュタイナー教育によってつちかわれた想像力や感性あってこそかもしれません。
モンテッソーリ教育
モンテッソーリ教育とは、イタリアの女性医師マリア・モンテッソーリが考えた教育法です。「こどもは自分で成長する力を持っている。自らの学びを邪魔しないこと」が大切だと考えられており、先生は一歩引いてこどもの活動を見守ります。
文字を学ぶには3歳から5歳ころ、など能力を伸ばすにはそれぞれ適した時期があると考えており、この時期のことをモンテッソーリ教育では「敏感期」と呼びます。この敏感期の期間は一人一人違うので、みんなで同じことをするのではなく、その子が自分で何をするか決めることを尊重しています。
モンテッソーリ教育が受けられる学校
・ザ・モンテッソーリ・スクール・オブ・トウキョウ(東京都)
アジア初の小学校・中学校があるモンテッソーリスクールとして誕生した、幼少中高一貫校のインターナショナルスクール。
モンテッソーリ教育を受けた著名人
スティーブ・ジョブズ
Appleの共同創業者の一人であり、同社のCEOを務め、一切の妥協を許さないカリスマ的変革者として知られています。
イエナプラン教育
イエナプラン教育は、ドイツの教育学者ペーター・ペーターセン(Peter Petersen,1884〜1952)がドイツで創始し、オランダで広がった、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育。フレネ教育に影響を受けており、深い関わりがあります。
イエナプランは、自分の良さや弱みを知るだけでなく、他者の良さを認め、社会で協働して積極的に活動できる大人を育てるという狙いが非常に強くあります。どんな人も世界にたった一人しかいない人であり、かけがえのない価値を持っています。わたしたちはみな、それぞれの人がもっているかけがえのない価値を尊重しあう社会を作っていかなくてはなりません。
イエナプラン教育が受けられる学校
・大日向小学校・大日向中学校
イエナプラン教育に加え、日本の教育ならではの豊かさを活かすことで、新たな価値を提供していると評判も高く、
県外からの教育移住者も相次いでいます。
イエナプラン教育を受けた著名人
調査中
レッジョ・エミリア教育
レッジョ・エミリア教育はGoogleでも採用されている、イタリアの小都市レッジョ・エミリア市で生まれた幼児教育です。
世界で“創造的な思考を育む乳幼児教育”として注目されているレッジョ・エミリア教育には、教育理念をまとめたものがなく、指導者であるローリス・マラグッツィが残した『子どもたちの100の言葉』が中心にあります。
“冗談じゃない。百のものはここにある。”という書き出しが印象的な『子どもたちの100の言葉』の詩では、子どもたちはその可能性において豊かであり、有能で、力強い存在である。100ものアイデアを、そして100を悠にこえる表現言語をもっていると、示しています。
参考 JIREA公式ページ(レッジョ・エミリア・アプローチのための組織)
レッジョ・エミリア教育が受けられる学校
・イートンハウス・インターナショナルプリスクール(東京)
港区赤坂の閑静な住宅街のなか、商業施設東京ミッドタウンの隣に位置しており、都心にありながらも大きな公園や緑に囲まれています。長時間保育の日本語保育室、英語、中国語のアフタースクールクラスを併設し、15ヶ月から6歳までの子どもにインターナショナルな教育を提供しています。
イートンハウス・インターナショナルプリスクール(東京)公式ページ
レッジョ・エミリア教育を受けた著名人
調査中
ドルトンプラン教育
ドルトンプラン教育とサドベリー教育、フレネ教育、イエナプラン教育は、いずれも幼児教育というよりは、主に小学校以上の学校運営のしくみあるいは理念と考えたほうがよいでしょう。
ドルトンプラン教育の特徴は「アサインメント」。生徒には一人ひとり個別の課題が与えられ、それをいつまでにどれだけ終わらせるのかを約束します。どう取り組むかは自由ですが、約束は守らなければいけないという意味で厳しさもあるといえるでしょう。受験勉強とも親和性があり、ニューヨークには「ドルトン・スクール」という幼稚園から高校までの一貫教育超進学校があります。
ドルトンプラン教育を受けられる学校
・ドルトン東京学園(中等部・高等部)
「自由」と「協働」の2つの原理に基づく「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」を軸とし、一人ひとりの知的な興味や旺盛な探究心を育て、個人の能力を最大限に引き出すことを目指しています。ハウスとは複数の学年で形成されるコミュニティのことで、アサインメントとは意欲を高め、学びを深めるための仕組み。ラボラトリーとは、自分で計画した学びを実践する場所と時間のことを意味します。
ドルトンプラン教育を受けた著名人
調査中
サドベリー教育
サドベリー教育は、アメリカの「サドベリー・バレー・スクール」の理念に共感し、その理念を踏襲する学校のことです。
時間割も授業もなく、ずーっと休み時間のような学校です。「先生」という概念すらないため、子どもたちが何かを学び始めるようにそそのかしたり促したりということもありません。「勝手にしなさい」を徹底すると、そのうち子どもは自ら学びだし、そのときに最大限の効果を発揮するという考えを持っています。卒業のタイミングも自分で決めるため、究極的に「自主自律」の精神を鍛える学校といえるでしょう。
サドベリー教育を受けられる学校
・一般社団法人 東京サドベリースクール
自立して自由に豊かに生きるためには「自分を育て、社会を学ぶ」ことが必要です。
そのために市民教育と人格形成を柱に、権利と責任を通じて、生徒が自分で自分を育てる学校です。
サドベリー教育を受けた著名人
調査中
フレネ教育
セレスタン・フレネ(1896~1966)がフランスで1920年代に始めたフレネ教育。
子どもの生活の中で、子どもが持った興味や子どもの自由な表現を大切にし、印刷機や様々な道具、手仕事をする中で、芸術的表現、知的学習、個別教育、協同学習、協同的人格の育成を図る教育法です。フレネなき今も「現代学校運動」として発展を続けており、フランスの公立学校では約1割の教員が実践、スペイン、ドイツ、ブラジルなど諸外国へも広がっています。
フレネ教育とイエナプラン教育は似ている部分も多く、いわゆる「よみ・かき・そろばん」的な基礎学力については
生徒がそれぞれの課題に個別にマイペースに取り組みます。一方で、クラスで車座になってお互いの作文を鑑賞したり、学校のルールについて話し合ったりという対話の機会も多く持っています。プロジェクト型の授業も多く、「民主主義社会におけるよき市民」を育てることに重きを置いています。
フレネ教育が受けられる学校
・ジャパンフレネ
少人数による学校以外の学びの場をつくり、選択登校(不登校)の子どもを応援します。一人一人の学び方はみんな違います。どんなところでどう学ぶか。学校に行かないという選択をした子どもを応援するのがジャパンフレネです。学校と学校以外の学びの場を結びつけ、学びの共同体を作っていきます。
ジャパンフレネ公式ページ
フレネ教育を受けた著名人
調査中
風越学園
楽天創業メンバーで副社長を務めた本城慎之介氏が理事長をつとめ、開校した私立の義務教育学校と幼稚園が一体となった混在校です。風越学園の「すべての子どもの自由に生きるための力と、自由を相互に承認する感度を育む」という理念は、哲学者であり熊本大学准教授の苫野一徳の考えからきています。
中学を卒業する15歳までに自分の可能性を探り進路を切り開いてほしいとの理由から高校は併設していません。教育課程は「前期課程」・「後期課程」に分かれ、幼稚園年少から小学2年生までが「前期課程」、小学3年生から中学3年生までが「後期課程」となります。普通の学校のような一斉授業はなく学級委員も日直もいません。チャイムも鳴らず、学びのコントローラーは子どもたちが持っています。スタッフは約50人で、全国から教員経験者ら数百名が応募しました。
風越学園を卒業した著名人
フィギュアスケート選手 鍵山優真
鍵山 優真は、日本のフィギュアスケート選手。2022年北京オリンピック銀メダリスト。
自由の森学園
自由の森学園中学校・高等学校は1985年、明星学園小中学校の校長であった遠藤豊らを中心に、点数序列主義に迎合しない新しい教育をめざして設立されました。その理念の支柱となったのが、数学者遠山啓の教育論です。彼は、一人ひとりの違う個性をもつ子どもを伸ばしていく教育をすすめるうえで、広く学校教育に浸透している競争原理は妨げになると考えました。
設立趣意書には「かけがえのない個の人間として、それぞれ異質で多様な可能性を潜ませていながら、いまの画一的な教育の中で萎えてしまっている若者たちの秀でた資質をひきだし、想像力を解放し、心の自由を育てる、そうした教育をつくりだすことを決意した」とあります。
自由の森学園を卒業した著名人
星野源 (ミュージシャン・俳優)
おわりに
文部科学省の令和3年度学校基本調査によると、日本の小学生の98.1%は公立小学校に通っており、日本全国どこでもほぼ同じ内容の教育を受けています。海外に目を向けてみると、米国や中国ではおよそ10%、フランスに至っては15%近くの小学生が公立学校以外の教育を受けており、日本のようにほぼ全員が公立小学校という国は、世界的に見ても珍しいかもしれません。
文部科学省の調査では、不登校を「年間30日以上の欠席」という定義から算出して1.0%としていますが、日本財団の調査では「年間30日以上は欠席していないが、不登校の傾向にある小学生」は14.4%に上るそうです。小学生の7人に1人が不登校傾向にある、というのが日本の教育の現状なのです。
オルタナティブスクールは着々と広がってはいるものの、まだまだ日本では数少ない存在です。
ですが、公教育が合わないと感じている子どもや保護者が自分たちにぴったりと合うオルタナティブスクールに出会うことができるようになれば、日本の教育も多様化が進み、子どもたちの学校事情も大きく変わってくることになるのではないでしょうか。より多くの子どもたちが幸せな学校生活を送ることができる社会がくることを願ってやみません。こちらの記事もその一助となりましたら幸いです。
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